下肢静脈瘤外来のご案内
当院では下肢静脈瘤に関する豊富な診療経験を有する専門医が、外来診療を行っております。
下肢静脈瘤でお悩みの方は、当ホームページをご覧いただき、受診をご検討下さい。
下肢静脈瘤とは
下肢の静脈がこぶのように膨らみ浮き出た状態をいいます。心臓から足に送られた血液は循環して、心臓まで戻っていきます。その帰り道にあたる血管が静脈です。静脈血は起きている状態では、重力に逆らって心臓まで戻らなくてはなりません。そこで、いったん心臓方向に戻った血液が、下肢の方向に逆戻りしないように静脈には弁が付いています。特に下肢の伏在静脈は負担がかかりやすく、その弁が壊れてしまうと、下肢の血液がうまく心臓方向に戻れなくなり、下肢に血液が停滞して様々な症状をきたします。下肢の静脈が膨らんで浮き出てくるのも、これが原因です。
下肢静脈瘤は女性に多い疾患です。妊娠や出産が下肢静脈瘤の誘因となることが多いからです。第2子や第3子を出産された後から認められるようになり、その後徐々に悪化し、40~50代以降に血管内治療を受ける方が多いと思います。このほか、立ち仕事も、下肢静脈瘤の誘因となります。立ち仕事の中でも、あまり歩かず、同じ場所に立って仕事する調理師・理容師・美容師などが静脈瘤になりやすい職業です。また、親が下肢静脈瘤の方も、やはり下肢静脈瘤になりやすいようです。
下肢静脈瘤
- 正常な静脈弁
- 壊れた静脈弁
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤は通常、年単位から10年単位でゆっくりと進行します。当院ではおおむね3段階に分類しています。
軽症
静脈弁が壊れて下肢の静脈に逆流が生じても、しばらくは無症状の時期が続きます。しかし、「足の血管が浮き出ている」という外見が気になり、外来を受診する方もいらっしゃいます。 症状は軽いか、全く無いという方もいます。静脈エコーで逆流の有無を確認すると良いでしょう。 しかし、このような病状では、かならずしも治療が必要とは限りません。一般的には様子を見ることも可能です。ただし、「恥ずかしくてほかの人に見られたくない」「自分の足を見ると気持ちが悪い」など、外見を特に気にして悩んでしまうような方は、治療したほうが良いと思います。
中等症
下肢の血管が浮き出ているだけでなく、以下のような症状が出てきます。静脈うっ滞症状と呼んでいます。このような症状がある場合、手術や治療を受けるには良い時期と言えます。
立っていると足がだるい
足がむくむ、はってくる
足がつる、夜中に痙攣をおこす(こむらがえり)
静脈瘤が片足にしか出ていない場合、静脈瘤が出ている足にこのような症状があれば、下肢静脈瘤が原因である可能性が高くなります。逆に両足ともに同等の症状があるというような場合には、別の原因の可能性が高くなります。
重症
中等症がさらに進行した状態です。下記のような、うっ滞性皮膚炎や静脈性潰瘍を併発してくる場合があります。これは、上記よりもさらに進行した状態と言えるでしょう。何らかの治療が必要です。できればこのような状態になる前に治療を行うと良いでしょう。
- 色素沈着:皮膚(特に静脈瘤の周囲)に茶褐色の色が付いてきます。
- 湿疹:特に静脈瘤の周囲の皮膚がざらざらし、かゆくなります。
- 脂肪皮膚硬化症:うっ滞性皮膚炎がさらに悪化した状態で、色が付いた皮膚が硬くなってきてきます。
- 静脈性潰瘍:皮膚の一部に傷ができ、治らなくなって皮膚が欠損してくることがあります。
- 下肢静脈瘤に伴う色素沈着
- 下肢静脈瘤による静脈性潰瘍
- 静脈性潰瘍(拡大した写真)
血栓性静脈炎
突然、静脈瘤内に血液の塊(血栓)ができることがありますが、これは重症度とはかならずしも一致しません。静脈瘤に血栓ができると痛みを生じ(血栓性静脈炎)、多くの場合1~2週間で自然に治ります。
しかし、血栓が静脈瘤内にとどまらず、伏在静脈内に血栓ができると(表在性静脈血栓症)、まれにそれが剥がれて移動し、足や骨盤内の深い静脈に血の塊ができたり(深部静脈血栓症)、肺動脈を塞いでしまう(肺塞栓症)ことがあります。これは、長時間のフライトや震災の被災者に発症する、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)として、広く知られている疾患と同じものです。表在性静脈血栓症は以前、比較的安全なものと考えられていましたが、表在性静脈血栓症の6%~40%がエコノミークラス症候群になるとの報告もありますので注意が必要です。
ご存じのように、エコノミークラス症候群の重症例は死に至る可能性があります。実際に、エコノミークラス症候群の弱い危険因子(肥満者と同等)として下肢静脈瘤が挙げられていますが、下肢静脈瘤があるからといって、すべての患者さんに、エコノミークラス症候群の予防のために下肢静脈瘤の手術を勧めることはありません。
まず、静脈瘤の膨らんだ部分が急に硬くなり、痛みを感じた場合には、早めに専門医を受診して下さい。当院ではエコーで血栓ができている場所を確認します。多くは静脈瘤内にあるだけですので、それほど心配することはありません。内服薬で様子を見ることが多いと思います。血栓が移動することがありますので、局所をもまないで下さい。また、このような時期(血栓性静脈炎の急性期)に血管内治療や抜去術を行うことは危険であり、一般的には禁忌となっています。あわてて手術を受けることは控えて下さい。
- 血栓性静脈炎:超音波検査で静脈瘤内の血栓(⇑)が認められます。
- 血栓性静脈炎:血栓がある静脈瘤が硬く触れ、皮膚に発赤が見られます。
下肢静脈瘤の検査
下肢静脈エコー検査
下肢静脈瘤の検査は、超音波を使用した「下肢静脈エコー検査」を行います。通常、立った状態で、下肢にゼリーを塗りそこに超音波発信器(プローブ)を軽くあてるだけで、痛みはありません。ふくらはぎをもんで、静脈の逆流の有無を調べ、治療の必要性やその方法を判断します。検査時間は、病状により異なりますが、静脈瘤の診断だけであれば片足約3分から10分程度です。この検査だけで、大半の下肢静脈瘤の診断や治療方針が分かります。
◎検査時には、当院で用意した「短パン」に着替えていただきます。
下肢静脈エコー検査
下肢静脈瘤の治療
弾性ストッキング
医療用弾性ストッキングをしっかり着用すれば、下肢静脈瘤の進行を遅らせることも可能です。立ち仕事の方の足が重いなどの症状が軽減したり、むくみが減少したりする場合もあります。長時間のフライトやバス旅行などに着用すると、エコノミークラス症候群を予防する効果があると言われています。
しかし、ストッキングだけで静脈瘤が治ることはありません。手術が必要な方が、漫然とストッキングをはき続けることは勧められておりません。また、締る力が強いので、履くにはコツがいります。逆に簡単に履けるストッキングは効果が少ないと考えて下さい。 毎日着用してゆるんできたら(半年ほどで)買い替える必要もあります。
ストッキングには色々な形状のものがあり、圧迫圧も異なりますので、病状に合わせて医師が選択します。また、ご自身の足の太さや形状に合ったストッキングを選ぶことも大切です。当院では、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの資格を有する看護師が、足のサイズをお計りした上で、足に合ったストッキングをご提案し、装着方法の指導や専門的なアドバイスを行っています。
弾性ストッキング
(ハイソックスタイプ)
- ストッキング以外の理学療法
ストッキング以外にも、以下のような対策を取ることで、下肢静脈瘤の進行をある程度遅らせることが可能な場合があります。
歩行
毎日ふくらはぎの筋肉を使ってよく歩くことをお勧めします。ふくらはぎの筋肉は第2の心臓と呼ばれています。足の血液を心臓まで送るポンプの役割をしているからです。歩くことで足の血液は心臓方向に進んでいきます。静脈の働きを助けているのです。
ダイエット
太りすぎると、腹圧が高くなります。そのため、足の血液が腹部に戻りにくくなり、足の静脈に負担がかかって静脈弁が壊れやすくなります。太りすぎている方は体重を減らし、腹圧が慢性的に上昇しないように気を付けましょう。
服装に注意
ハイヒールはあまり良くありません。体を締め付けるような下着も避けて下さい。
仕事
立ち仕事の方は、1~2時間に一度休憩を取るように心がけて下さい。その際は足を少し高くして休むことをお勧めします(例えば椅子を二つ用意して片方に座り、片方に両足を乗せるなど)。立ち仕事中も棒立ちはできるだけ避けて、なるべく歩く、足踏みをする、爪先立ちをするなど、ふくらはぎの筋肉を使うようにしましょう。椅子に座っている時も、長時間同じ姿勢を取り続けないようにして下さい。臥床する時は、足を体より少し高くすると効果的です。これらの事は、下肢静脈瘤の予防にもつながります。
下肢静脈瘤血管内治療
下肢静脈瘤の治療の中心は、この治療です。皮膚を穿刺して、弁が壊れた伏在静脈の中にファイバーやカテーテルを挿入し、伏在静脈を塞ぐ治療です。熱(レーザーやラジオ波)を使って伏在静脈を閉塞させる「血管内焼灼術」と熱を使わずに瞬間接着剤を使用する「血管内塞栓術(グルー治療)」があります。どちらも、局所麻酔で行う体に優しい低侵襲治療で、1泊や日帰りなどで行われています。どちらも健康保険が適用される保険診療です。
当院では、以下の2種類の血管内治療と硬化療法の3つの治療法の中から、最適な治療法を選択して行います。これらの治療は穿刺で行いますので、皮膚切開は、特別な場合を除き行いません。また、すべて日帰りで行っています。
- 手術(血管内治療)が必要な方
伏在静脈に高度の逆流があり、尚且つ以下のような状態の方に手術が行われます。
- 皮膚に痒みや湿疹がある方
- 皮膚に色が付いて、硬くなっている状態
- 潰瘍ができている方
- 足が重い、張る、こむらがえりが頻回、むくみがある方
- 見た目がひどく、お悩みの方
- 血管内焼灼術
- この方法は、局所麻酔で皮膚を穿刺して、伏在静脈の中にファイバーやカテーテルを挿入し、熱で伏在静脈をふさいで逆流を止める血管内治療です(図)。2011年に国内で承認された治療法で、レーザーや高周波などを使用して血管の内側より逆流している伏在静脈を焼灼します。当院ではレーザーを使用し、径の細いファイバーを用いて、幅広い病状の下肢静脈瘤の日帰り手術を行っています。治療時間は通常30分前後です。また最近では、静脈瘤自体もレーザーで軽く焼灼(瘤焼灼)しています(以前は小切開で切除していました)ので皮膚に切開をいれることは無くなりました。翌日から入浴が可能です。下肢静脈瘤手術後の再発や不全穿通枝にもこの治療法を用いています。
血管内レーザー焼灼術左大伏在静脈を焼灼しているところ。ファイバーは膝のあたりから、伏在静脈に挿入しています。大腿中枢から、ファイバーをゆっくり引き抜きながら焼灼していきます。
レーザーファイバー当院で使用しているレーザーファイバーはスリムファイバーといい、通常よりも細いファイバーです。これにより、経皮的穿通枝焼灼術(PAPs)や瘤焼灼などを行うことができます。
- 血管内塞栓術(グルー治療)
- この方法は、伏在静脈の中にカテーテルを挿入し、伏在静脈を圧迫しながらカテーテルの先端から伏在静脈内に瞬間接着剤(シアノアクリレート)を注入して、伏在静脈を塞いで逆流を止める血管内治療です(図)。2019年に国内で承認された方法で、グルー(glue)というのは英語で糊という意味です。前述した血管内焼灼術とは異なり、熱を使用しないこの治療は周辺組織への影響が焼灼術よりも少なく、出血斑や疼痛、神経障害などがさらに生じにくいのが大きな特長です。
治療時間は20分から30分程度で、局所麻酔もわずかな量であるため、治療後にすぐ帰宅でき車の運転や仕事も治療直後から可能です。切開は行いませんので、当日からシャワー、翌日から入浴が可能です。
但し、本治療はアレルギー体質の方には不向きです。また、病状により、血管内レーザー焼灼術のほうが効果的な方にはそちらをお勧めしています。当院での治療は、もちろん保険適用です。血管内レーザー焼灼術カテーテルを伏在静脈に挿入し、伏在静脈の中枢を圧迫しながら、先端より接着剤を注入していきます。注入しては、カテーテル3cm程度引き抜き、圧迫する手技をくりかえして、目的の治療範囲の伏在静脈を塞いていきます。
グルー治療に使用するキットグルー治療に使用する、接着剤とカテーテルおよび注入用ガン
下肢静脈瘤硬化療法
下肢静脈瘤に直接、硬化剤を注射して治療する方法です。静脈瘤は硬化剤で固まり、その後ゆっくりと吸収されていき、次第に無くなっていきます。外来で短時間に行うことができ、局所麻酔も必要ありません。治療部位を圧迫し、歩いて帰宅できます。通常、痛みも殆どありません。当院では硬化剤と空気を混ぜ合わせて泡状にした硬化剤を使用する、「フォーム硬化療法」と呼ばれる、新しい効果的な治療法を行っています。伏在静脈の逆流がないか軽度の場合や骨盤静脈瘤、網目状、クモの巣状の静脈瘤に行います。伏在静脈に高度の逆流がある方は、血管内治療をお勧めします。血管内治療で静脈瘤が残った場合にも行うことがあります。この治療も健康保険が適用される保険診療です(美容目的の治療ではありません)。
- フォーム硬化剤:空気と硬化剤を混ぜ合わせてフォーム硬化剤を作っているところ
- 硬化剤と空気が混ざり、泡状となった硬化剤
- 硬化療法の実際
- 治療の30分ほど前に来院していただき、治療部位に印をつけて、痛み止めのクリームを塗ります。立った状態で治療する部位、数か所の血管を確保したあと、仰向けかうつ伏せで硬化剤を注入していきます。クモの巣状静脈瘤では仰向けかうつ伏せで直接硬化剤を注入します。厚めのガーゼを治療部位に当て弾性包帯を巻きます。さらにその上から弾性ストッキングを履き終了です。治療は5分から15分程度です。直後から車の運転も可能です。包帯は24時間後にご自身で外していただきますが、弾性包帯は3週間ほど続けていただきます。
- クモの巣状静脈瘤に硬化療法を行っているところ
細い注射針が血管に入り、注入した硬化剤が静脈瘤内に広がって血管が白くなっていく様子が見られます。
その他の静脈瘤
骨盤静脈瘤
女性に特有の静脈瘤で、卵巣や子宮などの骨盤内の静脈の逆流によっておこる静脈瘤です。脚の付け根や大腿部の裏側にできる(図を参照)ことが多く、下腿まで広がってくる場合もあります。硬化療法で治療が可能です。外陰部に静脈瘤ができる方もいます(陰部静脈瘤)。中には婦人科的な症状(月経痛、下腹部痛、外陰部痛など)を主症状とする場合があり、「骨盤内うっ滞症候群」と呼ばれています。このような場合には、カテーテル治療で、卵巣静脈の逆流を止める治療法もあります。
骨盤静脈瘤
網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤
皮下の小さな静脈が2-3mm程度に拡張して、網目状に広がったものが網目状静脈瘤で、膝裏などによく見られ、通常青色に浮き上がって見えます。クモの巣状の静脈瘤は、直径1mm以下の細い血管が拡張したもので、大腿部などにできやすく、赤紫色になりますが、盛り上がりはほとんどありません。厳密には静脈瘤ではなく、毛細血管拡張症と呼ばれることもあります。両者ともに、無症状のことが多いですが、違和感がある場合や、外見上お悩みの方には硬化療法で治療を行っております。
- 網目状静脈瘤
- クモの巣状静脈瘤
下肢静脈瘤外来の受診をご希望の方へ
ながの県庁前クリニックの下肢静脈瘤外来を受診希望の方は、担当医の予約をお勧めいたします。
〒380-0836 長野市南県町658番地
ながの県庁前クリニック
TEL:026-232-2088
NCD登録ならびに学会・論文発表について
当院では、各学会の指導により当科で手術を受けた方を外科系の臨床データベース、National Clinical Database(NCD)に登録させていただいております。個人情報を特定できるような情報は収集されませんが、詳しいことをお知りになりたい方は、NCDのホームページNational Clinical Database 外科系の専門医制度と連携した症例データベース(ncd.or.jp)をご参照になるか、担当医にお尋ね下さい。
また、当院で医学の発展に寄与するため、当院で治療を受けた方々の過去のデータを分析し(後ろ向き観察研究)、学会・論文発表を行うことがあります。個人を特定できる情報は一切公表されませんし、医学倫理指針に基づいて行って行いますが、この件にご質問がある方や研究への協力を希望されない方は担当医にお申し出下さい。